腸内細菌が健康に関わることは知られているが、「具体的にどの菌が健康によいのか」「食事で変わるのか」は、これまで大規模な証拠が乏しかった。2025年、米国・英国の34,000人以上を対象にした過去最大規模の腸内細菌研究がNatureに掲載された。本記事では、査読済み論文をもとに、その主な知見をわかりやすく解説する。

この研究はどんな研究か?

研究の背景と規模

心血管疾患や2型糖尿病などの心代謝疾患は、世界的に増加している。食事と腸内細菌はどちらもその関連因子として注目されてきたが、多様な集団を対象とした大規模研究は不足していた。

この研究では、ZOE PREDICT研究の5つのコホートを統合し、米国21,340人・英国13,354人の計34,694人の腸内細菌(メタゲノム)データ、食事記録、身体測定値、健康マーカーを包括的に解析した。

解析の対象となった健康指標は、BMI・血圧・トリグリセリド・HDLコレステロール・空腹時血糖・HbA1c・炎症マーカー(GlycAなど)・心血管リスクスコア(ASCVD)など、37種類にわたる。

健康状態と腸内細菌の関係

腸内細菌は健康マーカーと関連している

機械学習を用いた解析の結果、腸内細菌の組成は、血糖値・コレステロール・トリグリセリド・炎症マーカー(空腹時・食後)と一貫した関連が見られた。AUC(予測精度の指標)は平均0.64〜0.73、Spearman相関係数は0.30〜0.46の範囲で、複数のコホートで再現性が確認されている。

「健康関連菌」ランキングの作成

研究チームは661種の腸内細菌について、37種類の健康マーカーとの相関をスコア化した「ZOE Microbiome Health Ranking 2025」を作成した。スコアが低いほど健康マーカーと好ましい関連を持つ菌、高いほど好ましくない関連を持つ菌として位置づけられている。

「健康に好ましい菌」の特徴

上位50種のうち22種は、まだ培養されておらず学術的にも詳しく解明されていない未知の菌だった。既知の菌の中では、Eubacterium siraeumFaecalibacterium prausnitzii などが好ましい菌として挙げられている。

「健康に好ましくない菌」の特徴

一方、好ましくない菌として上位にランクされた50種の多くは、すでに分類・培養されている既知の菌で、Ruminococcus gnavusRuminococcus torquesEnterocloster bolteae などが含まれていた。

BMIとの関連

このランキングはBMIとも強く関連していた。健康に好ましいランクの菌はBMIが低い人ほど多く、BMIが上がるにつれて減少する傾向が見られた。逆に好ましくない菌はBMIが高い人ほど多かった。27の公開コホート(5,348人)で検証した結果、健康体重の人は肥満の人に比べて好ましい菌を平均5.2種多く保有していたという関連が報告されている。

疾患との関連

2型糖尿病・大腸がん・炎症性腸疾患(IBD)・心血管疾患(CVD)・耐糖能障害(IGT)の患者と健常者を比較した25の公開コホート(4,816サンプル)での解析では、健常者は患者群に比べて好ましい菌を平均3.6種多く、好ましくない菌を平均1.6種少なく保有しているという関連が報告されている。特に2型糖尿病で最も強い関連が見られた。

食事と腸内細菌の関係

食事の質を反映する「食事関連菌」ランキング

健康マーカーとは別に、食事の質(健康的食事指数・植物性食品指数・地中海食スコアなど5種類の食事指標)に基づく「ZOE Microbiome Diet Ranking 2025」も作成された。

この「健康関連菌ランキング」と「食事関連菌ランキング」は全体的に高い一致を示した(Spearman相関係数 = 0.72)。たとえば Ruminococcus torquesFlavonifractor plautii は両方のランキングで好ましくない菌として位置づけられた。

好ましくない食事でも体に有益な代謝物を産生する菌も

一方、661種のうち65種は両ランキングで不一致を示した。たとえば Harryflintia acetispora は健康マーカーとは好ましい関連を持つにもかかわらず、食事指標との関連は好ましくなかった。この菌は食物由来の単糖類(マルトース・グルコース・フルクトース)を栄養源にしながら、体内で抗炎症作用を持つ短鎖脂肪酸を産生することが報告されている。

食事関連ランキングの地域差

健康関連ランキングの地域間一致度(ICC = 0.59)に対し、食事関連ランキングの一致度は低かった(ICC = 0.26)。これは食習慣が国や地域によって大きく異なることを反映していると論文では述べられている。

食事介入で腸内細菌は変わるのか?

2つの介入試験で検証

この研究では、横断研究から導かれたランキングが実際の食事介入でも機能するかを検証するため、2つの臨床介入試験の腸内細菌データを解析した。

  • ZOE METHOD試験(米国、347人):個人化された食事介入プログラム(PDP)群(177人)vs 米農務省ガイドラインに基づく一般的な食事アドバイス群(170人)。PDPグループでは18週間後にトリグリセリド・HbA1c・体重・ウエスト周囲径の有意な低下が報告されている。
  • ZOE BIOME試験(英国、349人):プレバイオティクス配合食品群(116人)・プロバイオティクス群(113人)・対照群(120人)の3群比較。

介入後に「好ましい菌」が増加した

食事介入(プレバイオティクスまたは個人化食事プログラム)を行ったグループでは、ランキング上位の「好ましい菌」が有意に増加し、「好ましくない菌」は減少する傾向が見られた。

ZOE BIOME試験のプレバイオティクス群では、57種の腸内細菌に有意な変化が観察された。増加した菌には、食物繊維を分解する Bifidobacterium adolescentisBifidobacterium longum、酪酸産生菌の Agathobaculum butyriciproducensAnaerobutyricum hallii などが含まれていた。

ZOE METHOD試験の個人化食事プログラム群でも46種の腸内細菌に変化が見られ、著名な酪酸産生菌である Roseburia hominisAgathobaculum butyriciproducens の増加が報告されている。

統計検定では、介入によって増加した菌のランクが減少した菌に比べて有意に好ましく(Mann–Whitney U検定、p < 0.001レベル)、横断データから導いたランキングが介入の効果を予測できることが示された。

注意点(この研究で言えること・言えないこと)

言えること

  • 腸内細菌の組成は、血糖値・脂質・炎症などの心代謝リスク指標と一貫した関連を示す
  • 健康に好ましいランクの菌と好ましくない菌は、BMIや複数の疾患と再現性のある関連を持つ
  • 食事の内容を変えることで、腸内細菌の組成が変化する可能性がある

言えないこと(論文の著者自身が明記している重要な限界)

この研究の主要部分は横断研究(ある時点のデータの観察)であり、因果関係を証明するものではない。論文では「因果推論は、前向きコホート研究や介入臨床試験なしには不可能である」と明記されている。

また、食事がマイクロバイオームを介して心代謝健康を改善する効果と、食事単独の効果を切り分けることは、現時点では難しいとも記されている。

さらに、コホートの参加者が主に欧米の生活習慣・食習慣を持つ人々に限られており、他の地域・民族への一般化には注意が必要とされている。

📌 まとめ
  • 米国・英国の34,000人以上を対象にしたNature掲載の大規模研究で、腸内細菌の組成と血糖値・脂質・BMI・疾患リスクとの関連が報告された
  • 研究チームは661種の腸内細菌を健康への関連でランク付けした「ZOE Microbiome Health Ranking 2025」を公開した
  • 健康に好ましいランクの菌の多くは、これまで研究が進んでいない未知の菌種だった
  • 食事の質を改善する介入(プレバイオティクスや個人化食事プログラム)によって、腸内細菌の組成が変化することが2つの試験で示された
  • ただしこの研究は観察研究が主体であり、「○○の菌を増やせば健康になる」という因果関係は現時点では証明されていない

参考文献:Asnicar F, Manghi P, Fackelmann G, et al. (2025). Gut micro-organisms associated with health, nutrition and dietary interventions. Nature, 650(8101), 450–458. https://doi.org/10.1038/s41586-025-09854-7 | ※本記事は上記論文の内容を解説するものであり、特定の食品・サプリメント・治療法の効能を示すものではありません。健康上の判断は必ず医師・専門家にご相談ください。