なかなか寝つけない、夜中に目が覚めてしまう——こうした悩みを抱える人は少なくない。睡眠の質には生活習慣や環境だけでなく、食事から摂る栄養素も関係している可能性がある。2025年に発表された28本のランダム化比較試験(RCT)を統合したメタ解析をもとに、睡眠の質を高める可能性が報告されている5つの栄養素を解説する。査読済み論文をもとに解説します。

この論文について——何を調べたのか?

対象と方法

この論文は、Mei M. らが2025年12月に医学誌『Nutrients』に発表したシステマティックレビュー+メタ解析である。PubMed・Web of Scienceなど6つのデータベースから文献を系統的に検索し、最終的に28本のランダム化比較試験(RCT)を対象に統合解析を行っている。対象は19歳以上の成人で、睡眠障害を抱える人と健康な人の両方が含まれる。

介入は「特定の栄養素を含む食品・サプリメントを摂取する群」と「摂取しない群(プラセボ群)」を比較する形式で、各研究でプラセボ対照が設けられている点がこの論文の信頼性の根拠になっている。

睡眠の質をどう測ったか

睡眠の評価には、以下の6つの指標が用いられた。

指標意味
PSQI(ピッツバーグ睡眠質問票)睡眠の質を主観的に評価するスコア。点数が低いほど良質
睡眠効率(SE)就床時間に対して実際に眠れた時間の割合(%)
入眠潜時(SL)床についてから眠りにつくまでの時間
総睡眠時間(TST)一晩の合計睡眠時間
中途覚醒時間(WASO)入眠後に目が覚めていた合計時間
覚醒回数(NASO)一晩に目が覚めた回数

これらの指標を複数の角度から評価することで、睡眠の「量」と「質」の両面が検討されている。

5つの栄養素と睡眠の関係——論文が報告していること

① トリプトファン

トリプトファンは、睡眠に関わるホルモン「メラトニン」と神経伝達物質「セロトニン」の合成に必要なアミノ酸である。体内では合成できないため、食事からの摂取が必要な必須アミノ酸のひとつだ。

この論文では、トリプトファンを含む食品・サプリメントの摂取が入眠潜時(床についてから眠りにつくまでの時間)の短縮や、中途覚醒時間の減少と関連していることが報告されている。トリプトファンを多く含む食品としては、乳製品・大豆製品・魚・ナッツ類などが知られている。

② ビタミンD

ビタミンDは骨の健康への関与でよく知られるが、睡眠との関連も近年報告されるようになっている。脳内にビタミンDの受容体が存在し、体内時計の調整や睡眠・覚醒リズムに関わる可能性が指摘されている。

この論文では、ビタミンD摂取が睡眠効率の改善や入眠潜時の短縮と関連していることが報告されている。なお、ビタミンDは食事からの摂取に加え、日光を浴びることで皮膚でも合成されるという特性がある。

③ オメガ3脂肪酸

オメガ3脂肪酸(EPA・DHA)は青魚に多く含まれる脂肪酸で、炎症を抑制する働きが知られている。慢性的な炎症は睡眠障害と関連することが報告されており、オメガ3脂肪酸がこの経路を介して睡眠の質に影響を与える可能性が考えられている。

この論文では、オメガ3脂肪酸の摂取が睡眠効率の向上や中途覚醒時間の短縮と関連していることが報告されている。

④ 亜鉛

亜鉛は免疫機能やタンパク質合成に関わるミネラルで、神経伝達物質の合成や調整にも関与しているとされる。睡眠に関わる脳内物質との関係が指摘されている。

この論文では、亜鉛摂取が睡眠の質の改善と関連していることが報告されている。亜鉛を多く含む食品には、牡蠣・牛肉・豆類・ナッツ類などがある。

⑤ 抗酸化物質

抗酸化物質(ビタミンC・ビタミンE・ポリフェノールなど)は、細胞の酸化ダメージを抑える働きがある。酸化ストレスの蓄積は睡眠障害と関連することが報告されており、抗酸化物質がその抑制を介して睡眠に影響する可能性が論文内で考察されている。

この論文では、抗酸化物質の摂取が入眠潜時の短縮や総睡眠時間の延長と関連していることが報告されている。

メタ解析全体として何が示されたか

28本のRCTを統合した解析の結果として、この論文では栄養素介入が以下のように睡眠指標の改善と関連していることが報告されている。

指標報告された変化
PSQIスコア−0.70ポイント(p<0.05)
睡眠効率(SE)+2.58分(p<0.00001)
総睡眠時間(TST)有意な延長(SMD+0.23、p<0.05)
入眠潜時(SL)有意な短縮(SMD −0.24、p<0.001)
中途覚醒時間(WASO)有意な短縮(SMD −0.30、p<0.001)
覚醒回数(NASO)減少傾向(p=0.05、統計的有意差なし)

覚醒回数については減少傾向が見られたものの、統計的な有意差は確認されなかったと報告されている。

注意点——この論文で言えること・言えないこと

この論文はRCT 28本を統合した質の高いメタ解析だが、読み取る際にはいくつかの点を押さえておく必要がある。

言えること:栄養素の摂取が、睡眠効率・入眠潜時・中途覚醒時間などの指標と関連していることが、複数のRCTを統合した解析で報告されている。

言えないこと・注意すべき点:この論文で扱われているのはあくまでも「栄養素・サプリメントの摂取」と「睡眠指標」との関連であり、特定の食品や製品の効能を示すものではない。また、介入期間・用量・対象集団が研究間で異なるため、結果の解釈には一定の幅がある。睡眠の悩みが深刻な場合は、医療機関への相談が適切である。

📌 まとめ
  • Mei M. らの2025年メタ解析では、28本のRCTを統合した結果、栄養素の摂取が複数の睡眠指標の改善と関連していることが報告されている
  • 特に、トリプトファン・ビタミンD・オメガ3脂肪酸・亜鉛・抗酸化物質の5つが報告されている
  • 睡眠効率の向上・入眠潜時の短縮・中途覚醒時間の減少・総睡眠時間の延長との関連が示された
  • これらはあくまでも「関連」の報告であり、特定の食品・サプリメントの効能を示すものではない
  • 食事から摂れる栄養素と睡眠の関係は現在も研究が進む分野であり、今後の知見の蓄積が期待される

参考文献:Mei M, Zhou Q, Gu W, Li F, Yang R, Lei H, Liu C. (2025). Dietary Supplement Interventions and Sleep Quality Improvement: A Systematic Review and Meta-Analysis. Nutrients, 17(24), 3952. https://doi.org/10.3390/nu17243952 | ※本記事は上記論文の内容を解説するものであり、特定の食品・サプリメント・治療法の効能を示すものではありません。健康上の判断は必ず医師・専門家にご相談ください。