どんな研究だったのか
動物実験では、高脂肪食が「明暗サイクルの前進」への体内時計の適応を妨げることが知られていました。しかしヒトでも同じことが起きるかは分かっていませんでした。
そこで研究チームは、毎年春に全員が一斉に行動を1時間早める夏時間の切り替えを、ヒトでの自然実験として利用しました。大学生を対象にした観察データ(SNAPSHOTスタディ)を使い、最終的に37名分のデータを解析しています。
体内時計の基準には、暗い環境でメラトニンが分泌され始める時刻(DLMO=dim-light melatonin onset)を使いました。そのうえで、夏時間の前後で睡眠の中点(眠りの真ん中の時刻)がどれだけ早い時間にずれたかを測り、ふだんの食事の脂肪量によって低・中・高脂肪の3グループに分けて比較しました。
ポイント① 低脂肪食の学生は素早く適応した
結果は明確でした。低脂肪食の学生は、夏時間の切り替えに合わせて睡眠・覚醒のタイミングを素早く前進させられた一方で、高脂肪食の学生は適応が遅かったのです。
「何時に食べるか」ではなく「何を食べているか(脂肪の量)」が、体内時計の切り替えやすさそのものと関連していた、という点がこの研究の面白いところです。動物実験で見られていた現象が、ヒトの自然な生活の中でも観察された形になります。
ポイント② 素早く適応できた人ほど健康・低BMI・好成績だった
さらに、夏時間に素早く適応できた学生ほど、全般的な健康状態が良く、BMIが低く、成績(GPA)も高いという関連が見られました。
体内時計を環境に合わせて柔軟に調整できることが、健康やパフォーマンスとつながっている可能性を示唆する結果です。
この研究から「言えること・言えないこと」
ここは特に慎重に読む必要があります。
言えること
- ふだんの食事の脂肪量と、夏時間への適応の速さに関連が見られた
- 低脂肪食の学生のほうが、睡眠・覚醒タイミングを素早く前進させられた
- 素早い適応は、より良い全般的健康・低いBMI・高いGPAと関連していた
言えないこと(注意点)
- これは観察研究(自然実験)であり、「高脂肪食が原因で適応が遅くなる」という因果関係は確定できない
- 逆の方向(もともと健康な人がたまたま低脂肪食を選んでいた、など)の可能性も残る
- 対象は大学生で人数も限られ(解析37名)、他の年代・集団にそのまま当てはめられない
- 「脂肪を減らせば時差ボケが治る」と言える段階ではなく、関連の報告にとどまる
- 夏時間という自然実験を使い、食事の脂肪量と体内時計の適応の速さの関連を調べた観察研究
- 低脂肪食の学生は素早く適応し、高脂肪食の学生は適応が遅かった
- 素早い適応は健康・低BMI・好成績と関連していたが、観察研究のため因果関係は確定できない
参考文献:McHill AW, Sano A, Barger LK, Phillips AJK, Czeisler CA, Klerman EB. (2024). Adaptation of sleep to daylight saving time is slower in people consuming a high-fat diet. iScience, 27(9), 110677. https://doi.org/10.1016/j.isci.2024.110677 | ※本記事は上記論文の内容を解説するものであり、特定の食品・サプリメント・治療法の効能を示すものではありません。健康上の判断は必ず医師・専門家にご相談ください。