春に時計を1時間進める「夏時間(サマータイム)」。多くの人がしばらく寝不足や調子の悪さを感じますが、その「慣れやすさ」に食事が関係しているかもしれません。2024年に学術誌 iScience に掲載された研究(McHill et al., 2024)は、夏時間という"自然実験"を使って、ふだんの食事の脂肪量と体内時計の切り替えやすさの関係を調べました。この記事では、その結果と読み解き方を整理します。

どんな研究だったのか

動物実験では、高脂肪食が「明暗サイクルの前進」への体内時計の適応を妨げることが知られていました。しかしヒトでも同じことが起きるかは分かっていませんでした。

そこで研究チームは、毎年春に全員が一斉に行動を1時間早める夏時間の切り替えを、ヒトでの自然実験として利用しました。大学生を対象にした観察データ(SNAPSHOTスタディ)を使い、最終的に37名分のデータを解析しています。

体内時計の基準には、暗い環境でメラトニンが分泌され始める時刻(DLMO=dim-light melatonin onset)を使いました。そのうえで、夏時間の前後で睡眠の中点(眠りの真ん中の時刻)がどれだけ早い時間にずれたかを測り、ふだんの食事の脂肪量によって低・中・高脂肪の3グループに分けて比較しました。

ポイント① 低脂肪食の学生は素早く適応した

結果は明確でした。低脂肪食の学生は、夏時間の切り替えに合わせて睡眠・覚醒のタイミングを素早く前進させられた一方で、高脂肪食の学生は適応が遅かったのです。

「何時に食べるか」ではなく「何を食べているか(脂肪の量)」が、体内時計の切り替えやすさそのものと関連していた、という点がこの研究の面白いところです。動物実験で見られていた現象が、ヒトの自然な生活の中でも観察された形になります。

ポイント② 素早く適応できた人ほど健康・低BMI・好成績だった

さらに、夏時間に素早く適応できた学生ほど、全般的な健康状態が良く、BMIが低く、成績(GPA)も高いという関連が見られました。

体内時計を環境に合わせて柔軟に調整できることが、健康やパフォーマンスとつながっている可能性を示唆する結果です。

この研究から「言えること・言えないこと」

ここは特に慎重に読む必要があります。

言えること

  • ふだんの食事の脂肪量と、夏時間への適応の速さに関連が見られた
  • 低脂肪食の学生のほうが、睡眠・覚醒タイミングを素早く前進させられた
  • 素早い適応は、より良い全般的健康・低いBMI・高いGPAと関連していた

言えないこと(注意点)

  • これは観察研究(自然実験)であり、「高脂肪食が原因で適応が遅くなる」という因果関係は確定できない
  • 逆の方向(もともと健康な人がたまたま低脂肪食を選んでいた、など)の可能性も残る
  • 対象は大学生で人数も限られ(解析37名)、他の年代・集団にそのまま当てはめられない
  • 「脂肪を減らせば時差ボケが治る」と言える段階ではなく、関連の報告にとどまる
📌 まとめ
  • 夏時間という自然実験を使い、食事の脂肪量と体内時計の適応の速さの関連を調べた観察研究
  • 低脂肪食の学生は素早く適応し、高脂肪食の学生は適応が遅かった
  • 素早い適応は健康・低BMI・好成績と関連していたが、観察研究のため因果関係は確定できない

参考文献:McHill AW, Sano A, Barger LK, Phillips AJK, Czeisler CA, Klerman EB. (2024). Adaptation of sleep to daylight saving time is slower in people consuming a high-fat diet. iScience, 27(9), 110677. https://doi.org/10.1016/j.isci.2024.110677 | ※本記事は上記論文の内容を解説するものであり、特定の食品・サプリメント・治療法の効能を示すものではありません。健康上の判断は必ず医師・専門家にご相談ください。